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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)207号 判決 1960年1月12日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田中長三郎の上告理由について。

論旨は、要約すると上告会社は本件約束手形を、犬塚雅久と自称する者に欺かれて、受取人山栄商事株式会社名古屋出張所宛に振出し、次で同人は山栄商事株式会社名古屋出張所取締役所長犬塚雅久と署名して被上告会社に裏書交付し、被上告会社は現にこれを占有するものである。しかるに、山栄商事株式会社は名古屋出張所を設けたことはなく、また同会社の取締役には犬塚雅久なる者も存在しない。故に本件手形の、山栄商事株式会社名古屋出張所取締役所長犬塚雅久なる裏書は、偽造または仮設人の署名か、或は無権代理人の署名であつて無効である。従つて被上告会社は本件手形の適法な所持人でない。原判決には手形法一六条一項の解釈を誤つたか、または同法七条、八条、一六条に違背した違法があるというにある。

本件約束手形の裏書は形式的に連続していることは、原判決の認定するところであり、また甲第一号証の記載に徴し明白である。次で原判決は、山栄商事株式会社名古屋出張所取締役所長犬塚雅久と自称する者が、昭和二九年五、六月頃しばらくの間名古屋市に滞在し、右趣旨を記載した名刺を使用し、同市昭和区丸屋町六丁目八一番地内田国雄方に、山栄商事株式会社名古屋出張所と書いた看板を掲げ、同人方の一室を事務所として石炭売買の仲介人等をしており、しかも取引の相手方等に対して右会社の本店は福岡市にある旨を述べていたが、叙上の犬塚雅久が、山栄商事株式会社を代理または代表する権限を有する旨自称して、上告会社から本件約束手形の振出交付を受け、それに所論の裏書をして被上告会社に交付した事実並びに山栄商事株式会社は福岡市に本店を置いて石炭の売買等を営業としており、しかも同会社には取締役の一員として犬塚勇という氏名の者がいたが、同人は目下所在不明である事実を認定しており、原判決挙示の証拠によるとこれ等事実を肯認できる。そして右認定事実によると、犬塚雅久と自称する者が、山栄商事株式会社を代理または代表する権限を有しないにも拘わらず、その権限を有する旨自称して、上告会社から本件手形の振出交付を受け、次で被上告会社に山栄商事株式会社名古屋出張所取締役所長犬塚雅久と署名してこれを裏書譲渡した旨の原判示事実を是認できる。また被上告会社は善意で右手形を取得して所持人となつた事実は原判決の適法に確定した事実である。

以上原判決の確定した事実によると、本件約束手形の裏書は形式的に連続しており、被上告会社は裏書譲渡により善意でこれを取得し(被上告会社の本件手形の取得に重大な過失のあつたことについては主張も立証もない)現に所持しているのであるから、犬塚雅久と自称する者が山栄商事株式会社を代理または代表する権限を有しないに拘わらずその権限ある旨自称して、上告会社から本件手形の振出交付を受け次でこれを被上告会社に裏書譲渡した事実によつては、本件約束手形の所持人たる被上告会社からこれが振出人たる上告会社に対する手形上の権利行使に消長を来たすものでないと解するのは相当である。それ故に被上告会社の請求を認容した原判決は結局正当であり、論旨はすべて理由がないことに帰する。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

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